毎日思うこと、感じることを日々の時間(とき)の中で綴ります


by reem-akemi
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バカだか利口だかわからない

先週、千葉県O町に住む姉から、父が下血したとの電話が入った。姉は認知症の母と口うるさい父の面倒をずっと見てくれていたのだ。私も弟もそんな姉には感謝している。翌朝早く私はO町を訪れた。私は両親と10年以上会ってない。理由はない。忙しさにかまけて、いつの間にか時間がたってしまったのだ。そんな私に父は電話で、死ぬとき来ても遅いぞと文句を言ったこともある。その言葉が本当になるかもしれない。。。

駅には義兄が迎えに来てくれた。ひさしぶりに見る義兄は目のあたりがぼんやりして見えた(人は年をとるとなぜ目のあたりがぼんやりしてくるのだろう)。この義兄にも10年以上会ってなかったのだ。病院の面接時間は午後からとのことで、デイケアセンターにいる母の見舞いをすることにした。母は毎日9時から4時までそこで過ごすらしい。デイケアセンターは白木の床も美しく、大きな広間に畳とテーブルが置かれ、清潔な感じがした。言ってみれば、ベビーセンターの老人版とでもいおうか。

「あ、あそこにいる」と義兄が指差す方を見るが私にはわからない。兄のあとについていき、ふさふさとした白髪の老婆の前に行き顔を見ると、懐かしい母の顔があった。でも、母の視線の先に私はいなかった。想像してはいたが、なんだかせつない。

次の瞬間、母はケラケラと笑い転げた。義兄が手をヒラヒラさせておどけていたのだ。母も自分も手をヒラヒラさせてニコニコしている。介護士が「Hさんは笑顔がいいのよ。歌も大好きでよく歌ってますよ。テレビで歌番組をすると前にすわってます」。私は母の歌などこれまで聞いたこともなかった。母はずっとニコニコとしている。けれど目が笑ってないので私には単なる筋肉の動きのように思えた(赤ん坊の笑顔も筋肉の自然な動きと聞いたことがある)。
「食事のあとお話しますか?」と介護士が言った。
「え?でも何もわからないでしょ?」
「いいえ、家族の方が一緒にいるだけでも違うんですよ」
そんなものなのだろうか。小さな部屋で待っていると介護士に手をひかれ母が来た。私は生まれて初めて母の顔をまっすぐにじっと見つめた。子どもの顔は子育て中によく見るけれど、親の顔をみつめたことなどついぞない。
「私はあんたの娘よ。わかる?」
しばらくの沈黙のあと、母はぽつりと一言。
「小さいときから好きだった」
「え?!」
それからしばらくたって
「バカだか利口だかわからない」
な、なに???それ、私のこと?!思わず訊ねた。
「それ、私のこと?ひどい!」
母はニッコリするだけだった。認知症って感覚でものを言うらしいけれど、まさに本質的なことを言う。母は私のことをずっとそう思っていたに違いない。なんだか可笑しくなってきた。

「髪は白いけど、眉は黒いのね」
独り言のように私がいうと
「かわいそう?」と母が聞いた。
「ううん」
母は本当に何もわからないのだろうか?とても不思議な感じだった。87歳の母は見た目では70歳代にしか見えない。肌も艶々して皺もなく健康的だ。認知症でさえなければ昔のままなのに・・・。聞き覚えのある声で、「し・ら・ゆ・り」と大きな声で言った。デイケアセンターの看板を読んだのだ。漢字はなんでも読めるとか。自分の名前が書いてある葉書をみつけると「これ、私の」とうれしそうにすると聞き、今度手紙を書こうと思った。昔、母は季節の折々にこまめに葉書をよこしたものだ。筆不精の私はただただもらうだけ。結局、子どもは親に何かをしてもらうことを当たり前と思って生きている。

今、母の瞳の先には私がいる。なぜって母の目に昔のような暖かさを感じたから。それとも暖かい目で相手を見つめると同じように反射してくるだけなのだろうか。いやいや、家族って言葉を越えた何かでつながっているのかもしれない。そう信じたい自分がいる。

30分ほど一緒に過ごしたあと、母は介護士に手をひかれ大広間に向かった。母の意識はどこにあるのだろうか。後姿をみているとせつなさがこみ上げてきた。母が「笑う人」になるまで、長い道のりがあったようだ。お湯をわかそうとしてポットをコンロに乗せて火をつけたり、茶筒にそのまま湯を入れたり、突然「もう帰らなくちゃ」と自宅を出たり、夜中に徘徊したり。。。そして、今、ただただ笑っているだけになった。2歳か3歳の幼児のような母だ。

外に出ると、朝方降っていた雨がやんでいる。車に義兄とともに向かったが、母を抱きしめなかったことを私はひどく後悔した。いつだって私は母の子ども。それ以外のなにものでもない。

父のことは次に書きます。
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by reem-akemi | 2009-02-09 11:12 | 日記